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長崎の標準語 「長崎じげ辞典」ザ・ながさき刊より

「は」
はい・・・・・・・・・・蝿
はがいか・・・・・・はがゆい。「テストん山のはずれたけんネー、はがいか」
ばかすけ・・・・・・・バカをさらに強調した言葉
ばさらっか・・・・・・・雑。動作が荒い。「あん娘はあんげんしとっても、けっこうばさらっかとやもんねェ」
はた・・・・・・・・・・・凧。
ばたぐるう・・・・・・・暴れる。もがく。
はたげる・・・・・・・・足など開く。広げる。「道路ばはたがって歩くな!」
ばちかぶり・・・・・・・ばちあたり。
ぱっち・・・・・・・・・・・股引。「今日は、寒かけんぱっちばはかんね」
はっていく・・・・・・・・行ってしまう。「あら、郵便屋さんなもうはってったばい」
ばってん・・・・・・・・・しかし、けれども。全国的に有名な長崎弁。
はぶらしこ・・・・・・・歯磨き粉。
はらかく・・・・・・・・・怒る。腹を立てる。
はわく・・・・・・・・・・掃く。
ぱんす・・・・・・・・・パンツ。
ばんぞ・・・・・・・・・こじき。
「の」
のーなる・・・・・・・失くす。同=のーならかす。「財布ばのーならかした」
のさん・・・・・・・・・・たまらない。「暑うしてのさんばい」
のぼすっ・・・・・・・・のぼせる。いい気になる。不良の因縁つけの慣用句「わい、のぼすんなよっ」
「ね」
ねずむ・・・・・・・・・つねる。いたずら坊主が「かあちゃんから、ねずまれたあ」
ねぶる・・・・・・・・・舐める。しゃぶる。「まーだこん子は、指ばねぶっとのなおらんねぇ」
ねぶたか・・・・・・・眠い。同=ねんたか
ねまる・・・・・・・・・腐る。「こんご飯はねまっとるばい。捨てんね」、うまく機能しない場合の表現「会議のねまる」

「ぬ」
ぬっ・・・・・・・・・・・・寝る。活用の変化としては「ぬっ、ぬる、ぬっぞ、ぬんねぇ、ぬっと、ぬーでー」
ぬっか・・・・・・・・・・暖かい。温い。「今日はまた、えらいぬっかねぇ」

「に」
にがね・・・・・・・・・・臀部にできる吹き出もの。
〜にき・・・・・・・・・・〜付近。「眼鏡橋んにきにある骨董屋さん」

「な」
なおす・・・・・・・・・・・片ずける。「ストーブば押入れになおせえ」
なして・・・・・・・・・・・どうして。何故。「病院にいったとはなしてやあ」
なすくる・・・・・・・・・汚いものなどをなすりつける。責任を他人に被せる。「イン(犬)のクソばなすくられた!」
なんちゃ・・・・・・・・・なんでも。同=なんでん。「なんちゃ良か」「なんちゃなか」
なんでんかんでん・・・・なんでもかんでも。「なんでんかんでんウチのせいにして!」

「と」

どうーあんね・・・・・・よいではないか。同意 どうーあろ。「そがん急いで帰らんちゃどうあんね!」
どーたらこーたら・・・・・あーだこうだ。
どうはっせん・・・・・・・殻付落花生。
どーまた・・・・・・・・・・どうして。なんとまあ。「どうまた、こん息子は頭ん悪かとやろか」
どがんしゅう・・・・・・どうしよう。買い物に行って「あいた、財布ば忘れた。どがんしゅう」
どこじん・・・・・・・・・どこの人。「あん人達はどこじんなあ」
どっかしゃん・・・・・・どこかに。
〜とっ・・・・・・・・・・・〜の?。〜よ。「なんばしよっと?」「本ば読みよっとっ」
〜とっと・・・・・・・・・〜してるの?。〜てるの。
とっとっと・・・・・・・・とってるの?。とってるよ。「こん席、とっとっと?」「うん、とっとっと」
どんく・・・・・・・・・・・蛙。
どんけつ・・・・・・・・・最後。どん尻。
どんばら・・・・・・・・・大きな腹。

「て」
〜で・・・・・・・・・・・〜ようよ。「すーで」
でけん・・・・・・・・・いけない。できない。「せんばでけん」
てしお・・・・・・・・・・小皿。
てちんご・・・・・・・・手遊び。
でぼちん・・・・・・・・ひたい。おでこ。「でぼちんの太さ〜」
でん・・・・・・・・・・・出ない。パチンコ屋で「ずんねぇ?」「でん」
てんげ・・・・・・・・・てぬぐい、タオル。
てんこぶ・・・・・・・蜘蛛。
でんでらりゅうが〜・・・・長崎の昔の童謡。でんでらりゅうがでてくるばってんでんでられんけん〜


「つ」
つ・・・・・・・・・・・・・傷口が乾いたかさぶたのこと。
つーくれ・・・・・・・・空っぽ。中身の質が悪い。「こんみかんな、つーくればい」
つっかかり・・・・・・先端。
つっぽんがす・・・・穴をあける。通りを良くする。「けつばつっぽんがすぞ」
つむ・・・・・・・・・・・髪を切る。「床屋に行って、頭ばつんでこい」
つんつらかす・・・・めちゃくちゃにする
つんくじっ・・・・・・・むしりとる。
つんので・・・・・・・一緒に。遠出の際「あぶなかけん兄ちゃん達につんので行かんば」
つんぶるう・・・・・・ほこりを叩く。子供が饅頭を落として「よかよか、つんぶろうて食え」

「ち」
ちゃんぽん・・・・・・長崎の郷土料理として定着。中国人による、中国人の為の簡便食。
ちょいちょ〜い・・・相手をからかう際に用いられる囃子言葉。「彼女んふられた」「ちょいちょ〜い」
ちんぐ・・・・・・・・・・親友、相棒。
ちんごよんご・・・・・よたよたとふらつく様。
ちんじゅ・・・・・・・・天然パーマ。「そいはパーマか!」「いやー、ちんじゅです」
ちんちょか・・・・・・変な、変わった。小さいという意味ではない。
ちんちろまい・・・・・てんてこまい、あわてる様子。

[た」
だい・・・・・・・・・・・・誰。「焼酎焼酎ば頼んだとはだいや」
たいがいぶり・・・・・大概に。ほどほどに。「大酒もたいがいぶりにせんば」
たれかぶる・・・・・・大便を漏らす。
だいどこ・・・・・・・・台所。
だご・・・・・・・・・・・だんご。転じて暴行の意としても用いる。「わいはだごにすっぞ!」
ださんばまあけの・・・・・じゃんけんぽんの際の最初はグーと同じ。「ださんばまあけのじょっこいちっ」
だつとでん・・・・・・・誰とでも。「だつとでん仲良うせんばつまらんばい」
たまがる・・・・・・・たまげる。びっくりする。
だまんき・・・・・・ノンタイトルマッチ。本気ではない。ビーダマで負けそうになった時「いまんとはだまんきやっかあ」
だんじゃなか・・・・そんなゆとりはない。その様な状況ではない。

「そ」
ぞうたんのごと・・・・冗談じゃないよ。
そがしこ・・・・・・・・・それだけ。
そがんゆーたっちゃ・・・・・そんな風に言われても。
そずる・・・・・・・・・すれる。「そんがん歩き方ばしたら、下駄んそずっやっか」
そびく・・・・・・・・・ひっぱる。ひきずる。
ぞろびく・・・・・・・・地面をひきずりながら引っ張って行く様。
そんげん・・・・・・・そんなに。同意「そがん」 

「せ」
しぇからしか・・・・・・めんどくさい。うるさい。
しぇく・・・・・・・・・・・閉める。「入口の戸ばちゃんとしぇかんね」
せびらかす・・・・・・からかう。

「す」
すいかんぼ・・・・・かたばみ。クローバーの様な植物。
すーすーすっ・・・・・スースーする。
すーでー・・・・・・・・しようよ。「よかやっか、すうでー」
すかばる・・・・・・・・腫れあがる。「二日酔いで顔んすかばれとっ」
すける・・・・・・・・・・下に敷く。
すつっ・・・・・・・・・・捨てる。
すっぺたのこっぺたの・・・・・・ああだ、こうだ。
すらごと・・・・・・・・・うそ。そらごと。
ずんだれる・・・・・・服装や態度がだらしない。

「し」
しぇんしぇい・・・・・先生。
じぇんしぇ・・・・・・・前世。
じぇひとん・・・・・・ぜひとも。絶対。
しかぶり・・・・・・・糞尿を漏らすこと、または人。
じげもん・・・・・・・土地っ子。地元。
しこ・・・・・・・・・・〜だけ。「あるしこ持ってくっけん」
じご・・・・・・・・・・おしり。
じごでっぽう・・・・おなら。
じごんす・・・・・・・肛門。同意に「ぽいのす」
しつらかす・・・・・・ほったらかす。しっぱなし。
しとらす・・・・・・・・していらっしゃる。同似「しよらす」
しゃあ・・・・・・・・・おかず。
〜じゃこて・・・・・〜しないでどうする。「弁当がいっとなら、もっと早よう言わじゃこて」
しゃっちが・・・・・・どうあっても。どうしても。「しゃちがせんばとや〜」
しゃんぴん・・・・・・新品。
じゅったんぼ・・・・ぬかるみ。水たまり。
しゅる・・・・・・・・・汁。「みそしゅる」「はなじゅる」
しょたくれる・・・・・だらしなく、さえない様。「なんばしょたくれて歩きよっとや〜」
じょっこい・・・・・・じゃんけん。「じょっこいちっ」
しょんなか・・・・・仕様がない。やむをえない。

「さ」
さすっ・・・・・・・・・させる。
さばく・・・・・・・・・髪の毛をとかす。「髪ぐらい、さばかんねー!」
さぶなか・・・・・・塩気が足りない。何か一味足りない。
ざまーなか・・・・みっともない。
さるく・・・・・・・・うろうろする。(やましい感じ)
さらく・・・・・・・・ぶらぶらする。(明るい感じ)
さん・・・・・・・・〜へ。〜の方向へ。

「こ」
こい・・・・・・・・・・これ。「こいなんね」
こーこ・・・・・・・・・長崎では「たくあん」そのものを指す。漬物は「つけもん」
こーん・・・・・・・・・この野郎。ケンカの際に多用する。「くらっすっぞ、こーん」
こしょぐる・・・・・・・こそぐる。くすぐる。
こしょばいか・・・・・くすぐったい。
こすばる・・・・・・・・いかさまなどをする事。卑怯。「わい、こすばんな〜」
こずむ・・・・・・・・・・積む。
こそーっと・・・・・・・こっそりと。「ばれんごと、こそーっと出てゆかんね」
〜ごたる・・・・・・・・〜の様だ。「ごたっ」も同意。「猫んごたる」または「猫んごたっ」
ごっちん・・・・・・・・しんのある堅いご飯。
ごっつお・・・・・・・御馳走
こっぺのわるか・・・・・きまずい。かっこわるい。
ごと・・・・・・・・・・〜の様な。「風の如く」は「風んごと」となる。
ごて・・・・・・・・・ごと と同意。
こみんか・・・・・・小さい。「こまんか。こまんちか。こみんちか」など同意。

「け」
けごゆか・・・・・・毛深い。「うちはけごゆかけん、夏はすかんばい」
げさっか・・・・・・・下品な。
けったくる・・・・・・蹴る。
げな〜・・・・・・・・〜だってさ。「となりの旦那さんな朝帰りげな〜」
けぶたか・・・・・・煙たい。
〜けん・・・・・・・・〜だから。そうだからは「そいけん」「そいやけん」
けんたい・・・・・・勝手。「わい、けんたいかね」

「く」
ぐじぐじ・・・・・・・・ぐずぐず。「なんばぐじぐじしょっとね、はよ歩かんね」
くっさしかー・・・・・かったるい。むしゃくしゃする。
くつぞこ・・・・・・・舌平目。
くらすっ・・・・・・・・なぐる。「うったく」と同意。
くる・・・・・・・・・・・行く。「あした、わいんがたにくっけん」
ぐるり・・・・・・・・・まわり。

「き」
きさん・・・・・・・・・貴様。お前。
〜きっ・・・・・・・・・〜できる。「こがん食べきっとね」
きつか・・・・・・・・・きつい。疲れた。きっつあ〜も同意。
ぎっちょんぎっちょん・・・・・昆虫のバッタ
きびる・・・・・・・・・結ぶ。「蝶結びてどがんしてきびっと」
きゃ〜・・・・・・・・・ものすごく。「きゃあまぐれた」
きんなか・・・・・・黄色の。黄色そのものは「きな」


「か」
〜か・・・・・・・・・・〜い。〜だ。「おいしか」「きれか」
かいる・・・・・・・・帰る。「おい、かいっけん」
かさくれ・・・・・・・瘡。できもの。
かずむ・・・・・・・・匂いや香りを嗅ぐ。
がた・・・・・・・・・・〜の家。「あいは、おいんがたん犬ばい」
かつがつ・・・・・・それぞれ。各々。「昼めしば、かつがつ頼んで食え」
かっちぇる・・・・・仲間に加える。「おいもかっちぇて」「わいは、かっちぇん」
がっぱいする・・・・がっかりする。「息子ん大学ばおっちゃけて、がっぱいしたばい」
かつれ・・・・・・・・ガツガツする。がっつく。「かつれご」
がと・・・・・・・・・・〜程。〜分。「そんひわ(枇杷)ば千円がとくれんね」
かぱん・・・・・・・カバン
〜かぶる・・・・・〜しそうになる。〜しかける。「泣きかぶる」「死にかぶる」
かぶんす・・・・・・頭の大きい人。
がぼっと・・・・・・たくさん。もの凄く。「もっとがぼっとくれろ」
かます・・・・・・・ふっかける。「へばかますっぞ」
からう・・・・・・・・おんぶする。かつぐ。
がられる・・・・・・おこられる。「宿題ばして行かんば、しぇんしぇいにがらるっぞ」
かる・・・・・・・・・借りる。「本ばかってくる」(借りる)、「本ばこうてくる」(買う)。まぎらわしい
かんつく・・・・・・噛みつく。「犬からかんつかれた」
〜がん・・・・・・・〜の様な。「うんにゃ。そがんより、こがんすう」
がんつくっ・・・・・睨みつける。「わいはなんばがんつけよっとや」


「お」
おいんげ・・・・・・・僕の家。「おいんげに遊びにこんね」
おうち・・・・・・・・・あなた。「こいはうちんと、あいはおうちんと」
おうどぼうず・・・・いたずら小僧。
おえかぶっとる・・・・髪が伸びすぎている。「髪のおえかぶっとるけん早よ床屋に行け」
おーどか・・・・・・・横着な。「あいたちはおーどかばい」
おーとる・・・・・・・合ってる、会ってるの両方に用いる。
おっちゃける・・・・落ちる。「試験におっちゃけた」
おっとろ〜し・・・・びっくりした。たまげた。「えすか」とは異なる。
おめく・・・・・・・・大声をだす。「もっとおめかんば聞こえんぞ」
おろいか・・・・・・古い。粗末。脆い。

「え」

えいくさる・・・・・・酔っ払ってくだをまく様。
えすか・・・・・・・・恐い。「あん空家はよう幽霊のずっとげなぞ」「えすか〜」
えっと・・・・・・・・・なかなか。そんなに。「あんげん良か女はえっとおらんばい」
えばる・・・・・・・・威張る。「えったえばんなぞお」

「う」
うーばんぎゃーか・・・几帳面でない。雑。
うしなう・・・・・・・・なくす。失う。「切符ばうしなわんごとせんば」
うちんと・・・・・・・・自分の物。「そん本はうちんと」
うっすっぞ・・・・・・捨ててしまうぞ。「こんげん写真ば集めて、こいわっ!うっすっぞ!」
うっくえる・・・・・・壊れる。「机のうっくえた」
うったく・・・・・・・・たたく。なぐる。「わいはおおちゃっか!うったくぞ!」
うったかるっ・・・・・たたかれる。「いつも親父からうったたかるっとばい」
うっちょく・・・・・・・放っておく。「そんげんバカはうっちょいて早よ映画に行こうでぇ」

[い」
いお・・・・・・・・・・・さかな
いが・・・・・・・・・・・子供。「いがは早よ寝じゃ」
いがく・・・・・・・・・・ゆがく
いじで・・・・・・・・・・ものすごく。「いじでむかつく」
いっちょ・・・・・・・・・一つ。「そいばいっちょくれんね」
いっちょん・・・・・・・ちっとも。少しも。「いっちょんわからん」
いっとき・・・・・・・・しばらく。少しの間。「次の電車までいっとき待たんば」
いらう・・・・・・・・・・さわる。
いらんしゃあばん・・・・・よけいなお世話。「なんばいいよっとか。いらんしゃあばんたい」
いんま・・・・・・・・・今に。その内。「いんま見とれよ。こんくそおやじ」

「あ」
あーもう・・・・・・・・・・いらだちの気持ち「あーも、せからしか」
あい・・・・・・・・・・・・・あれ。あいつ。「あいだいや?」
あいたす・・・・・・・・・あっ痛い。頭をぶつけて「あいたす」
あすこ・・・・・・・・・・・・あそこ。「あすこんゴミばひろえ」
あせがる・・・・・・・・・・あせる。あわてる。いそぐ。「はようせろ」「そげんあせがんな」
あたこと・・・・・・・・・いたずら。わるさ。「うちん孫はようあたことばっかいすっとばい」
あまめ・・・・・・・・・・ごきぶり。船虫。
あもじょ・・・・・・・・・お化け。「あ〜も〜じょ」「早ようねらんば、あもじょのくっぞう」
あんち・・・・・・・・・・兄さん。「わいんがたの息子は、よかあんちになったね〜」
あんちっしょ・・・・・・あんちくしょ。あの野郎。「あんちっしょ、のぼせとるばい」

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芥川龍之介と河童屏風
長崎市立博物館に芥川龍之介の描いた「河童屏風」がある。長崎と近代文学をつなぐ貴重な記念物である。
そしてこの銀屏風は、数ある芥川の河童の図でも随一といわれるもの。
大正11年5月20日付け、長崎から東京の真野友二郎宛の芥川の手紙に「この間、ある人のために銀屏風に画と歌を書きました。
漱石先生は、詩半人前、書半人前と称していられましたが、わたしは、御弟子故、画3分の1前、書3分の1前、詩3分の1前、併せて
1人前にしています。
ところが、画も詩も字も悉く出来損じてしまひました。その為どうも屏風といふものは、甚だ気味の悪いものになっています。」と書いた。
鬼気迫る河童の図で、ススキを肩に獲物の魚をブラ提げてすみかに帰るところ。
銀屏風2枚折で、左の面に「橋の上ゆ 胡瓜なぐれば 水ひびき すなはち見ゆる かぶろのあたま お若さんのために我鬼酔筆」としたため
てある。大正11年31歳の作である。「お若さん」というのは、料亭「菊本」の女将であった杉本ワカさんのことである。
菊本も今はなく、ワカさんもすでに昭和52年、84歳でなくなった。
「河童屏風」はワカさんの生前に市の博物館に寄贈されていたものである。
芥川の長崎初遊は大正8年5月で、県立図書館の芳名録には、5月6日付でその署名が見られる。
そして2日後の5月8日には親友菊池寛の署名もある。
2人はそろって東京駅をたったのだが、菊地は車中で発熱して途中下車し、遅れて長崎に着いたのである。
長崎切っての名家、趣味人の永見徳太郎が、自宅に2人を泊めて、いたれりつくせりの歓待をした。
芥川はこの旅行によって彼の南蛮趣味や切支丹研究を遺憾なく満足させることができた。
大正11年は長崎再遊の時で、ワカさんはそのころ妓籍にあって「照菊」といった。
長崎に来て4日目、5月14日、小島の鳳鳴館(もと西洋料理屋の福屋)で、地方ではめったに見られぬ梅若万三郎の能を見た。
この梅若の会にたまたま来合わせていたのは、名妓照菊であった。
芥川は照菊の気品あふれた容姿と、物静かな立ち居振舞いに心を動かし、その後はしばしば芥川の宴席に侍った。
結城縮みに八反の帯を締めた照菊を、東京にもこんな芸者はいないよ、と言って「でうす如来は 忘りょとままよ 月の照菊忘られぬ」と、
即座のざれ歌を作って照菊におくった。
照菊も31歳、芥川と相年であった。芥川と照菊の間は宴席だけの付合いで、それ以上のことは2人の間には何もなっかた。
昭和41年の正月早々、芥川比呂志が初めて念願の長崎にやって来た。長崎に行ったらぜひ菊本の女将にお会いしなさいと言ったという。
早速菊本に向かい、女将に挨拶。河童屏風は部屋の中に用意されていて、比呂志はウムとうなって食い入るように見入った。
芥川の思い出話がひとしきり続いたあと、女将がポツリと言った。
「今になって思いますと、先生と何かあった方がよかったごとございます。」座は賑やかな笑いとなった。静かな初春の夜のことであった。
その芥川比呂志も惜しくも、すでに今はない。
時の流れをしみじみと感じさせる。

「長崎ものしり手帳」 永島正一氏 著より

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長崎のフレ声
行商人のフレ声、今は昔となってしまったが、もろもろの行商人がもろもろの商品をフレ声も高く売り歩いた。もはや廃絶したものばかり。
「ヤイッ」と一声、これは何と炭売り、木炭売りである。
はじめ「スミヤイ」と言っていたものを、慣れてくると「ヤイッ」になり、買う方も「ヤイッ」という声が聞こえると木炭売りが来たと分かる。
昆布、いも、もやし売りが「バイモ モヤイ」と言った。イモとモヤシは何となく入っているようだが昆布はどこに行ったものだろうか。
大根売りは「デーウーデーホ」である。デエコン、デエコンが大訛りしたものか。
「ナンマーイーダ」が「ドーイ、ドーイ」(長崎の精霊流しのかけ声)に変化したようなものであろう。
鯨の肉売りが「オゲンヤイ」で、鶏肉売りは「ニワッチョイ」で、豚肉売りは「ブタッショイ」である。
ある日、浦上の婦人が「ブタハヨゴザンスカ(宜しうございますか、ご入用ではございませんかの意)」とフレあるいてきた。
その日はイワシがいつものように沢山とれて、「イワシャヨゴザンスカ」と戸町小ヶ倉の婦人が競争でイワシをフレ歩いていた。
あっちもイワシ、こっちもイワシである。豚肉売りの婦人が、つい引き込まれて「イワシャヨゴザンスカ」と言ってしまってテレ笑い。
その位イワシ売りの声は巷に満ち満ちていたということである。
マグロの魚売りが「シビーパイ」、マグロのことを長崎ではシビといった。シビにシパイが付いたものだが、シパイとは何だろう。
鰹売りは「エッツイ」と言った。これも分からない。
なまこ売りは「ウルカエーコノワタ」とフレ歩いた。なまこは干してイリコと言う。貿易品、一般に売り歩くことを禁じた時代があった。
ウルカ、コノワタを上に置いてひそかに売り歩く者があった。
のちに「トーラゴヤイ、トーラゴヤイ」と売りにきた。正月二日の縁起で買うのである。
トーラゴは俵子と書く。正月早々、米俵を買うのは縁起が良いというわけ。値段も「御祝儀」、売値を言わず、買値を言わずである。
梨売り「ナシバーナシヤイ」、柿売り「カジワッジュイ、カジワ」、そして漬物売りは「クーキッ」。
あめ売りは「カヨーカヨー」。これは換えようの意味。古傘、古下駄、その外不用品と交換したものである。
西瓜売りは「エスクワェー」、南瓜売りは「ホーウリヤイ」、「ジガネー」は古物不用品買い、ジガネーは地金であろうか。
「ジョーマイ、ジョーマイナオシ」は鋳掛屋。「キセルサオガイ」はキセルの竿換え。
「ラオーガエー」と言ってくるのもいた。ラオは、ラオスである。ラオス産の竹、キセルのラオ。キセルはカンボジア語である。
人参売りは「ニージンドワイ」、すりこ木売り「レンギャイ」、椎の実売り「シャンガシイヤイ」、蕪売り「カブダラダラー」、なすび売り「ナスビーヤイ」、鏡餅売り「クモーツ」(供物)、花売り「ハナーイ」、灰を買って歩く者がいた「ヒャーワタマットランナー」。
油揚げ物を売り歩く時に「テンプラーツケアゲ」、盆灯篭売りは「ヤゲンドーロ、ドーロヤイ」、ヤゲンは薬研である。
子供のカンの虫の薬として赤蛙を売りに来た「クサナギムシヤイ、アカドンクヤイ」。クサギは薬、染料に用いられる。夏に紫色の花が咲く。

「ながさきものしり手帳」 永島正一氏著 より

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師走の長崎
『冬至』

冬至は長崎で師走の重要な行事の一つであった。
長崎には元禄二(一六八九)年以来唐人屋敷があって、その囲いの中では故国の風習がそのまま行われていたのである。
冬至は宋代に最も重んじられた節句で、貧富の別なくこの日は晴着に着替え、酒宴を催し正月と同じように祝ったものという。
唐人屋敷の中でも一陽来福(イイヤンライホ)の節として盛大に冬至の日を祝った。
帰化唐人の子孫である唐通事の家庭でも冬至の祝は盛んであった。
そして長崎の町家でも、この風習を見習って一陽来福の佳日を祝った。
冬至の晩、長崎の町家では善哉餅を作った。餅はカンザラシ粉で作ったが、これも唐人の風習であった。
唐人も日本人も陽気なもの。町は大賑わい。そこでこの騒ぎに目をつけたのが、出島のオランダ人達である。

『阿蘭陀冬至』

冬至のどさくさに便乗して、オランダ冬至と称してクリスマスを祝おうというのである。
冬至の日は、毎年大体クリスマス前夜近くの日に当たる。
オランダは新教であったが、長崎出島に上陸すると一切の宗教的行事は禁止されていた。
彼等は利益の多い貿易に専念してあえて布教に手を出すことはなっかった。
このオランダ冬至がクリスマスであろうとは長崎奉行所の役人も出島出入りの長崎町人も知らなっかたであろう。
然し奉行所の中で、1人位はおかしいと思った者もいたようである。大田直次郎、即ち大田南畝、蜀山人である。
出島内で行われるオランダ正月やワーテルロー戦勝記念日などは理解できたが、オランダ冬至は 只事ならぬ行事と見てとった。
「一年一度の大事」と特に注目したのはさすがである。この日、出島の中では甲比丹以下正装して宴を催し、多くの日本人客も招待された。
オランダ料理にワイン、日本人はオランダ冬至と素直に受取り、オランダ人は故国のクリスマスを思い浮かべ、家族のことに思いを馳せ複雑な心境であっただろう。

『ナタラ』
クリスマスは長崎にもう一つあった。
それは浦上キリシタンのクリスマス。彼等はそれをナタラと言った。ナタラはラテン語のナタールのなまったものであると言う。
キリスト降誕祭のことである。勿論、役人の目を逃れ、ひそかに行われたクリスマス。
しかしそれは一年中で最も重要で楽しい行事であった。ナタラの夜は、二、三週間前から準備し、牛小屋を清め、各家ご馳走を作る。
牛にも赤飯を食べさせる。そして人々は「天使祝詞(ガラスサ)」百五十回を唱える。
浦上と外海(西彼杵半島の町)の信者の間に伝わった古い祈祷文がある。

「ガラスサ充ちみち給うマルヤの御身に御礼なし給い、御主は御身と共にまします。女人の中に於て分けて御果報いみじきなり。
又御胎内の御実にてましますゼズスも尊くまします。
デウスの御母サンタ・マルヤ様今も我等の最期にも、我等悪人のために頼み給え、アンメイ・ゼズス。」

「長崎ものしり手帳」 永島正一氏著より

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『踏絵』
長与善郎の名作「青銅の基督」(大正十一年)は、南蛮鋳物師が作った踏絵が、余りに真に迫っていたので、信者と疑われて断罪されたという事実からヒントを得て書かれた小説である。
長与善郎は、長崎の永見徳太郎からヒントを与えて貰ったと付記している。
南蛮鋳物師というのは、寛文の頃長崎の古川町に住んでいた萩原祐佐である。
祐佐は幕府の命で真鍮の踏絵二十枚を作った。いま、東京の国立博物館に祐佐の作った踏絵十九枚が保存されている。
一枚足りないのは長崎から天草に運ぶ際に海中に落としたというが、長崎入港の唐人船に役人が臨検して宗門改めをする際に誤って海中に落としたともいう。
祐佐が真鍮の踏絵を作る前は、信者から没収した金属聖画像を板にはめ込んだものを用いていた。
踏絵または絵踏の行事は長崎の正月行事で、寛永の頃から所によっては明治の初めまで、二百数十年間も続いたキリシタン発見の為の行事であった。
しかし、表面は仏教徒を装いながらキリスト教を守ってきた信者たちも踏絵を行ったものだから、踏絵の行事は年中行事化して、無意義なものとなっていったようである。
長崎市中の踏絵の行事は、正月四日から八日まで毎日続くのである。
「踏絵町」という組み合わせがあって、四日に十四ヶ町、五日に十六ヶ町と順々に役人が出張って、各戸しらみつぶしに一人残さず、踏絵板を足で踏ませる。
毎年のことだから市中の町人たちは軽い気持ちで踏絵をするが、正月早々最もつらい思いをするのが浦上の信者たちであった。
キリシタンの里、浦上村山里の踏絵は、市中の踏絵の済んだあと、正月十四日と十五日であった。
踏絵の済んだ市中の町々では祝宴が開かれた。これは一種の厄払の祝宴とも見られた。
小豆めしを炊き、煮しめ、なますを作り、三味線を弾き四ツ竹を鳴らし、家々を踊り廻る者もいたという。
市中の最後の踏絵は、八日の丸山花街の踏絵であった。
遊女は、ひいき客から贈られた「絵踏衣装」の身を飾り美麗を尽くして踏む。
「市中貴賎遊冶郎」どもが、面をかくして見物、大変な賑わいであった。
鏑木清方画伯描く「ためさる日」は、丸山遊女の絵踏を描いたものである。
「京の女郎の長崎衣装」と歌われた丸山遊女の晴姿、
それは江戸の大歌舞伎「助六」の舞台の三浦屋格子先の並び傾城を見るような心地がしたものであろう。

「長崎ものしり手帳」 永島正一氏著より

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『江戸の仇を長崎で』
江戸の仇を長崎で討つ。
と言えば、江戸で恨みを受けた武士が長崎敵を討たれた、意外な場所で昔の恨みを晴らすというように解釈されるが、
これは江戸の敵を長崎討つというのが正しい。
大阪の籠職人が竹細工で巨大な涅槃像を作り、江戸で見世物小屋を興行した。
見世物始まって以来の奇観と、札銭十八文の高値も何のその、市中はもとより近在近国から見物人が雲霞のように押寄せた。
この大阪職人の進出に、腹の虫が納まらぬ江戸の籠職人、上方贅六の籠細工に無暗に喝采する江戸市民の態度がシャクにさわる。
江戸っ子のきっぷを見せてやろうと、負けじとばかりに竹細工で巨大な酒天童子を作り挑戦したが、見物人は一向に盛上がらず流行ることはなっかった。
江戸職人の負けであり、大阪職人はますます鼻高々であった。
するとまた新しい挑戦者が現れた。これぞギヤマン細工灯篭と、ビイドロ細工阿蘭陀船である。
長崎の細工人が灯篭に五ヵ年、蘭船に七ヵ年を費やして苦心に苦心を重ねた結晶である。
灯篭も蘭船も巨大なもので、大灯篭の各々の面にはことごとく浮き彫りで異国の風物を表し、さながら蜃気楼を見る心地であった。
この長崎人のガラス細工は空前の大物作りであり、美麗精巧さは籠細工の比ではなかった。
江戸中の人気はガラス細工に集まり、完全に大阪職人の鼻を明かした結果となった。
「江戸の敵を長崎が討つ」が「江戸の敵を長崎で討つ」になった次第だが、「が」が「で」になったばかりにワケを聞かぬとわからぬことなった。


「長崎ものしり手帳」 永島正一氏著より

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